地域通貨について気軽に読んでいただこうと、ロールプレーイングの形で書きました。お仲間で役割分担されてお楽しみください。

矢島正浩・文

ロールプレーイング“地域通貨を街に”
    あ:地域通貨初心者
    い:商店主
    う:自称地域通貨習熟者

 家庭にて
あ:最近、地域通貨っていう言葉をよく聞きますが、一体なんですか。

う:一口でいえば、感謝を形にして循環させるものです。
あ:感謝を形にっていうと、お中元やお歳暮みたいなもののことですか。最近は、けっこう好みがあって難しいんですよね。かといって現金や商品券といういう訳にもいかないし。
う:感謝を形にといっても、いろいろあります。今おっしゃったお中元、お歳暮といったものから、ご近所からのいただいたものにお返ししたり、もっと身近な例では、子ども達が母の日に「お母さん、ありがとう」って肩をたたいてくれたり、お使いに行ってくれるのも、感謝を形にしたものですよね。
あ:そうそう、肩たたき券とか書いた紙切れをもらって、親は感激して実際には使わないけどね。
う:その肩たたき券を家庭の中で回すことを考えてみましょう。肩たたきに限らず家事を手伝ってくれたらチケットを渡す。子どもはそのチケットで宿題を手伝ってもらうとか、好きなおかずにしてと頼めるとか、服を泥だらけにしてきたらごめんなさいとチケットを渡すとか。
あ:手伝ってもらったらお小遣いをやってますが。
う:お小遣いとして現金を渡すと、好きなおやつを外に買いにいってしまうかもしれません。チケットを使っておやつをリクエストすれば、親子の会話が増えることになると思います。
あ:頼みにくいこともいえるし、チケットをかせぐために手伝いを進んでしてくれるかも。
う:ここで、ちょっと頭のすみにとどめておいてほしいことがあります。まず、このチケットはその家庭でしか通用しないのはあたりまえですよね。それと、お小遣いを外で使われるのと違って、家計として損も得もありません。

 地域にて
う:次に、もう少し範囲を広げて見ましょう。ご近所の間で感謝のしるしのチケットをつくってみましょう。
あ:どんな使い方をするんですか。
う:例えば一人住まいの高齢者の方が、買い物とか家の手入れとかちょっとしたことで、ご近所に手助けしてほしいとしましょう。なかなか頼みにくいとかいつもお世話になって心苦しいとか、遠慮があると思います。その時チケットを使います。例えば代わりに買い物に行ってもらったら感謝のしるしとしてチケット2枚、高い所の電球交換は1枚とか。枚数に違いを設けなくてもいいんですが、ひとによってはけっこう手間がかかることもあるでしょうから、相場を決めずにお互いに相談の上決めることにした方が頼みやすいと思います。高齢者の方もしてもらうだけではなく、ご自分が出来ることでチケットをもらうことにしてみましょう。例えば、共稼ぎでなかなか庭の手入れができないお宅の庭掃除をしたらチケット3枚とか、郷土料理を教えてあげてその謝礼をチケットで受け取るっていったこともできます。
あ:つまりいつも一方がしてもらうのでなく、このようにチケットを使って、出来ることでお互いが助け合うってことですか。
う:団地やマンションの井戸端会議で、英会話が得意とか、ピアノが弾ける、メールが打てるという風に、お互いの特技がわかったら、チケットでお願いしあうというのも面白いですね。
あ:本人は何でもないことが、ひとにはすごいことってありますもんね。生き甲斐って言うか、人のために役立っていることが実感できるってとても素敵なことですよね。それにひょっとしたら、あんな特技があるとかこんなことがしてもらえるとか口コミで、今まで知らなかった人とつながりができるかもしれませんね。うまい具合に、チケットだとその部分だけのつきあいも可能かもしれませんね。最近はプライベートに触れることが嫌われる場合は多いですから。
う:いままではやってもらう、やってあげるといったことを中心に話をしてきましたが、チケットの対象を行為だけに限定する必要はありません。例えば家庭菜園でたくさんできた野菜をご近所に配ったとしましょう。貰った方はお返しにお菓子をと考えた時、口に合うかどうか不安です。そこで、お礼にチケットを渡してみましょう。逆に生ゴミを処理してもなかなか利用できませんよね。もし家庭菜園のお宅が堆肥にしたものをほしいのであれば、チケットで買ってもらうこともできます。
あ:今「買う」という言葉を使いましたが、いっそ最初から野菜をチケットで「売る」ということにしてもいいですよね。
う:そうですね。そうすれば、ひょっとしたら間にあっている野菜を配っていたかもしれない心配もなくなります。さっきけっこう好みがあってという話がありましたが、必要な人に必要なだけもらってもらえます。
あ:それって無駄がないっていうことですよね。
み:環境にやさしいっということにつながっていきますね。
あ:最初は、チケットを感謝のしるしとして渡してたものですが、まるでお金のような働きのようになってきましたね。
う:でも、お金と大きく違うのは、チケットが使えるところ、例えば団地とかマンションとかご近所のグループとかいった所でしか通じません。実はこれが「地域通貨」です。
あ:つまりある地域しか通用しない通貨ということですね。
う:厳密には通貨ではありません。通貨には本来の交換手段という役割の他にそれ自身が商品となっています。利息を足してお金を買っているんですね。地域通貨は通貨本来の物とかサービスの交換手段に特化したものなんです。
あ:でも所詮は遊びでしょ。実際の経済とは違う次元の話でしょ。

 お店にて
う:実は経済活性につながるんです。では、商店街で使うことを考えてみましょう。
い:店で使うということなら、それがいくらの値打ちがあるのかわからなくてはどうしようもないし、裏付けになるものもいるんじゃないの。
う:円と違ってその地域しか通用しないということは、言い換えれば、そのチケットを認める人の間だけでしか通用しない。つまり、本当は、地域通貨というよりは、仲間通貨というべきものなんです。認め合う仲間同士の信頼感や助け合いの気持ちがあって成り立つのですから、その信頼感といったものが裏付けになっているのです。
あ:商店街で発行しているスタンプやシールもそういったイメージがありますよね。
う:そうですね。でも違うのは、スタンプはお店だけが出すことができますが、地域通貨は、感謝のしるしとして、一般の人も出せることです。
あ:形はシールのようなものですか。
う:地域通貨にはいろいろな種類があります。通帳型といういわば大福帳のように取引をどんどん書いていく方法もあります。紙幣のようなものを発行する場合もあります。この場合、額面を書かずに、1枚が何円に相当するという手もありますが、ある単位での額を印刷しておくのも手です。ただし単位は円ではない方がいいです。偽札になってしまいます。それに円では買えないものも地域通貨で買える、つまり人と人との間で生まれる感謝が本来の取引対象ですし、ため込んでも利子もつかないことも、円とは違いますから、それをはっきりさせるために他の単位にしましょう。ここでは、みなと街四日市に因んで「シップ」という単位の地域通貨を考えて見ましょう。地域通貨と円との換算は日本各地のそれぞれの地域通貨によって異なります。とりあえず1シップが1円に相当するものとしましょう。
あ:いくら1シップが1円といっても、遊びのお札で物が買える訳がないじゃないですか。
う:例えば商品代金の5%まで地域通貨が使えるとしましょう。つまり、1,000円の品物を950円の現金と50円分の地域通貨50シップで買えるとします。
い:さっきからの疑問だが、シップは言ってみればおもちゃのお金のようで、価値があるわけない。そんなやり方なら、5%値引きと同じじゃないか。
う:でもこのことによって、他の商店街に落ちたかもしれない1,000円のうち950円が入ったことは事実です。今は内税で話しましたが、外税であれば、お客さんに「本体分は円で払って下さい。消費税分はシップで払ってもいいですよ」という言い方もできます。しかも50円分の50シップはまた使えるのです。シップを受け取る他のお店で使えます。お店でなくても、例えば店の前のプランタの花の手入れをしていただいた高齢者に感謝のしるしとしてあげるのもけっこうです。子ども達がお手伝いしたお礼でもけっこうです。その高齢者は知り合いに車に乗せてもらったお礼にシップを使い、車の人は商店街で使う…というようにシップはその地域を回り始めます。
あ:そんな風に普通のお金のように使われるのなら、印刷だってちゃんとしたものにして偽造できないような立派なものにしなければ成らないから経費もかかるし…。
う:例えば誰かが1万シップつまり1万円分偽造したとしましょう。でもシップは代金の5%しか使えません。つまり、1万円分のシップを使おうとしたら20万円のものを買わなければなりません。現金19万円と1万シップということです。受け取った偽造シップも本来の感謝のしるしとして、肩たたき券のように回せば、人の役に立ったという満足感を振りまきます。10,000シップ分肩をたたいてもらったら腫れ上がってしまいますけどね。偽造しても意味がないのです。言い換えると、シップが動く時は、感謝のしるしとしてそのまま回るか、お金として回る場合にはその19倍の現金が一緒に回るということです。

 どんなスタンスで
い:さっきから5%、5%といっているけど、うちは薄利多売でやってるからそりゃできないね。
う:お店ごとに決めればいいんです。うちは代金の3%までシップを受け取るよ、とか、食堂であれば、どのメニューでも一杯につき20シップ使えます、といってもいいですよね。あるいは…趣味はおありですか。
い:家内はハーブを育てるのが好きだね。
う:それでしたら、お店の商品とは関係なしに、100シップもってきたらハーブの苗差し上げます、とか。そして、受け取ったシップはハーブの手入れを手伝ってくれた人へのお礼に使うとか。
あ:そのことで最初からちょっと気になることがあるんです。それは人の善意に値段をつけることなんです。
う:確かに商店で物を買うときには1シップは1円としましたが、それはあくまでも便宜上のものであって、今ハーブの苗を100シップとしましたが、人によっては、ハーブの苗が50円の価値しかない、逆に200円の値打ちをみるかもしれません。ハーブの苗をもらうことへの感謝のしるしです。おっしゃるように、善意に値段をつけるようにみえますが、前にもいいましたように、そこには相場とか定価はないんです。車にのせてあげることだって、今は暇だから100シップでいいですよ、行きたい方向と違うから200シップ下さい、という風に日によっても相手によっても違って構わないのです。お互いに納得できればそれでいいのです。実際に円を払う訳ではないですから懐も痛みません。むしろ、それがきっかけでコミュニケーションが図れることの方が大きいのです。
い:シップをどう扱うかは好きにやればいいってことなのか。
あ:でも人にものを頼むのに、子供ならともかく、大人なら時間給に換算してやらないと。
う:その度に円に換算するのではなく、別の価値と考えて頂いた方がいいと思います。時間給800円だから800シップ払わないとと思っても、お店では800シップ分使うのは大変です。800円分のものを買うには40シップあればいいのですから。大事なことは楽しく使うことなんです。面白がって使うことなんです。感謝されることって、本来言われてやることではなく、自発的にやることでしょ。地域通貨は元々感謝循環の道具なんですから。

 回さなきゃ
あ:さっき経済活性といってましたよね。
み:1万円と1万シップがあったらどっちを先に使いたいですか。
い:そりゃシップさ。やっぱり信用ないもんね。悪貨は良貨を駆逐するってね。
あ:シップはババ抜きのババのようになるべく人に回したいですよね。
い:この不景気だからせっかく入ってきた1万円はなるべく留まっていてほしいし、銀行に預ければわずかだけど利子もつく。
う:そう思うのは当然です。例えば1万円が5日間留まっていたとしましょう。一方、1万シップがババのように次から次へとたらい回しされて、例えば1日に二人の手を通っていったとすれば5日間で10人、10万シップつまり10万円の働きをしたことになります。そのとき商品代金として回ったのなら、その19倍のお金が動いているのです。
あ:そんなにうまく回るかな。
う:それには工夫が必要だと思います。商品代金の一部として受け取ったシップは、いくらため込んでも意味がないことはおわかりですね。であれば、使う算段を考えなければなりません。お客さんからシップを受け取るのとは逆に、うちの店の宣伝チラシを配ってほしい、店の前を掃除してほしい、あるいは子供の遊び相手になってほしい、そのお礼をシップで払います、というように、してほしいことを、例えばシップのチラシに書いておくなどの工夫がいると思います。
あ:貯めて意味のあるお金は貯めればいいのだけど、そうすれば流れない。ちょっと見には信用ないようだけど、ひょっとすると地域通貨の方がよく流れるかもしれませんね。
い:金は天下の回り物というけど、今の世の中、全然回っていないからな。回っているのは特定の所だけじゃないの。
み:地域通貨は、使うことで意味があるのです。しかも円の場合だと、あたりまえのことですが、地域の外に持ってでることができます。中央の大手企業が地域にあって、その地域で得た利益を中央へ持ち出したりすれば、それだけ地域に回るお金が減ることになります。地域通貨はその地域しか通用しませんから持ち出される心配はありません。最初に家庭でチケットを回す分には、家計に損得がないっていいましたよね。それと同じで、地域全体としては損得がないんです。その中で勢い良く回り、それに伴って物やサービスが動きます。それはまさに地域の助け合いです。地域通貨はその意味でも弱者の味方なんです。ですから、地域通貨、言い換えれば、仲間通貨を「あったかマネー」っていってもいいかもしれませんね。